多様でユニーク!多民族国家マレーシアの祝日事情
まもなく8月。マレーシアの町は2024年8月31日に迎える67回目の国家記念日、National Day(ナショナル デー)/Hari Merdeka(ハリ ムルデカ)の月ということでお祝いムードで盛り上がり始めています!
このナショナル デー/ハリ ムルデカはマレーシア全国民がお休みできる祝日ですが、マレーシアでは全国一斉の祝日とは別に州ごとに異なる祝日もあるなどおもしろい点があります。
そこで今回は、日本人の目から見ると少しユニークにも映るマレーシアの祝日事情についてご紹介します。
【お休みが多い?多民族国家マレーシアの祝日事情】
マレーシアが多民族かつ多宗教の国ということはこれまでのコラムでもたびたびお伝えしてきた通りですが、実はこのマレーシアの多民族・多宗教、マレーシアで暮らす人たちのスケジュールの基盤となるカレンダーにも大きく影響をしています。
まず、マレーシアの祝日は年間に何日くらいあるのでしょうか。マレーシア政府発表による2024年の国全体と言っても良いほとんどの州に適用される祝日は、振替休日も含めると年間16日。参考までに世界でも祝日が多いと言われている日本の2024年の祝日(振替休日を含む)は21日ですので、これだけを比較すると日本のほうが多いようですが、マレーシアには単純に比較ができない事情が含まれているのです。
信仰や民族などの多様性を大切にする国マレーシア。後ほどもう少し詳しく解説しますが、国として定めた祝日以外にも例えばマレー系が主となるイスラム教徒の人口が多い州ではイスラム教に関わる大切な日が祝日と設定されていたり、ジョホール州やクランタン州などの五つの州ではイスラム教徒にとって大切な金曜日が週末となる金土休みを採用するなど、独自性に富んだスタイルも見受けられます。
また、9つの州に存在するその州の君主となるスルタンの誕生日はその州は祝日となるほか、ボルネオ島側に位置するサバ州やサラワク州では先住民由来のお祭りが祝日となるなど、まさに多様性が入り乱れるカレンダー事情となっていることがお分かりいただけるでしょう。
このような事情を加味して州別で祝日数をカウントしていくと、マレーシアは世界でもトップレベルの祝日の多い国に仲間入りをする、というわけです。
日本では都道府県ごとに異なる祝日が設けられている例は極めて少ないと言えますので、マレーシアの州ごとに変化のあるこの祝日事情は斬新に感じる方も多いのではないでしょうか。
【民族や信仰で異なる大切な日。マレーシアの宗教別祝日事情】
マレーシアの祝日事情で最も特徴的なことは、民族や信仰によってお祝いをする日が異なりながらも全国で一律に祝日になることが多い、という点です。日本の人たちにとっては自分が信仰していない宗教のお祝いごともお休みになるの?と新鮮に映るかもしれません。
せっかくですので、民族や信仰に起因する代表的な祝日をご紹介します。各祝日が次に訪れるのはいつなのかも、あくまで予定ですが記載していますのでマレーシア訪問の際の参考にしてください。
マレー系マレーシア人の祝日
●ハリ ラヤ アイディルフィトリ(Hari Raya Aidilfitri)/ハリ ラヤ プアサ(Hari Raya Puasa)=断食明け祝祭
<次はいつ頃?> 2025年3月31日頃/イスラム暦の10番目の月初日(10月1日) ※毎年10日程度ずつ前倒し
●ハリ ラヤ ハジ(Hari Raya Haji)=巡礼祭/犠牲祭
<次はいつ頃?> 2025年6月7日頃/イスラム暦の12番目の月の10日目(12月10日) ※毎年10日程度ずつ前倒し
中華系マレーシア人の祝日
●チャイニーズ ニュー イヤー(Chinese New Year)=旧正月/春節
<次はいつ頃?> 2025年1月29日頃/旧暦の1月1日 ※毎年、新暦の1月下旬~2月上旬の間で前後
●ウェサック デー(Wesak Day)=釈迦誕生日。
<次はいつ頃?> 2025年5月12日頃/旧暦の4月8日 ※毎年、新暦の5月中旬~下旬の間で前後
インド系マレーシア人の祝日
●ディーパバリ(Deepavali)/ディワーリ(Diwali)=ヒンドゥー教光の祭典
<次はいつ頃?> 2024年10月31日頃/ヒンドゥー暦の7番目の月初 ※毎年、新暦の10月下旬~11月上旬の間で前後
●タイプーサム(Thaipusam)=ヒンドゥー教タミル暦の祭典
<次はいつ頃?> 2025年2月11日頃/タミル暦の10番目月の満月の日 ※毎年、新暦の1月中旬~2月中旬の間で前後
サバ州&サラワク州先住民の祝日
・タダウ アマタン(Tadau Kaamatan) =収穫祭(サバ州)
<次はいつ頃?> 2025年5月30日頃 ※毎年ほぼ変動なし
・ガワイ ダヤク(Gawai Dayak)=収穫祭(サラワク州)
<次はいつ頃?> 2025年6月1日頃 ※毎年ほぼ変動なし
今回はその祝日それぞれの詳しい内容については省きますが、ご興味がある方は2023年4月公開のこちらの記事にて一部ご紹介をしています。ぜひご参照ください。
ここで挙げた祝日以外にもクリスマス、そして新暦の新年の1月1日も全国でお休みと制定されています。まさに新旧それぞれの大切な日を祝日とするスタイルということがお分かりいただけるでしょう。
【30年ぶりの珍事!新月観測でハリラヤが一日前倒しに】
先述のそれぞれの宗教の祝日ですが、具体的な日付についての注釈に「予定」や「毎年前後する」などの記載が多いことに気が付かれた方も多いでしょう。祝日が毎年固定されていないの?という疑問が湧きますが、これもまたマレーシアならではの特徴があります。
信仰に起因する祭日は基本的に旧暦やイスラム暦によって動くカレンダーに基づきます。そのため、一年のうちでだいたいこのあたりという時期は皆把握しているものの、毎年その日付は変動しているのです。
マレーシアでカレンダーを購入すると分かりますが、宗教ごとの祝日はカレンダーに記載はされているけれど、それはあくまで予定なのです。実際にその日が迫って来たら前後で一日ずれて祝日変更が発表される、ということも過去には起きています。
実はそんなおもしろいマレーシアの祝日事情を表す珍事が2022年の5月に起こりましたので、ご紹介しましょう。
2022年、カレンダー上ではイスラムの断食を行うラマダーン月は5月2日に終了し、翌日5月3日がその祝祭となるハリ ラヤ アイディルフィトリ(Hari Raya Aidilfitri)となる予定でした。ところが、本来5月2日に見える予定だった新月が前日の5月1日夜に観測されたとの発表があり、新しい月の訪れが一日早まったとともに急に断食も終了!ということになったのです。
もともとは5月3日とカレンダーにもしっかり印字されていたハリ ラヤ アイディルフィトリが急遽一日前倒しになったことで、5月1日夜のマレーシアは翌朝からの来客と挨拶訪問の準備に駆け回る人たちで大騒ぎとなりました。
もちろん祝日カレンダーも変更でお休みが急に一日追加されるなど、企業や政府機関などはその対応に追われ、イスラム教徒以外のマレーシア国民もなんとなく慌ただしさと高揚感で盛り上がった夜となりました。
ちなみにこのような事態は1982年以来、実に30年ぶりの珍事。基本的には月の満ち欠けはそうそう変わることはなくこのような出来事は滅多にないのですが、自然を相手にすることでこのようなことも起こりえる、そしてそれはすでに決まっていたカレンダーであっても覆ることがある、というマレーシアの祝日事情のおもしろさとフレキシブルな側面を語る上での逸話となっています。
【伝統を重んじるマレーシア。国王と各州スルタン誕生日は祝日!】
マレーシアには13の州がありますが、そのうちの9つの州に「Sultan(スルタン)」と呼ばれる世襲制の君主がいます。このスルタン、マレーシアの政治や国王について語る際によく登場する単語で、マレーシア国民にとっては非常に大切な存在でもあります。
また、このスルタンの中からマレーシア全体の国王となる「Yang di-Pertuan Agong(ヤン・ディプルトゥアン・アゴン) 」、略称「Agong(アゴン)」も選出される決まりとなっています。その選出方法は5年ごとの任期限定という、世界的にも珍しい国王選出制度が敷かれています。
(以下、文中では各州君主を「スルタン」、そのスルタンから選出されたマレーシア国家としての王を「国王」と表記します。)
マレーシアの国王選出スタイルについてもう少し詳しく知りたい方は、2023年3月公開のこちらの記事にてご紹介をしています。ぜひご参照ください。
マレーシア国民にとって大切な存在となる国王、そして各州のスルタンの誕生日はもちろん祝日ですが、ここにもマレーシアならではの祝日事情が垣間見えます。
まず国王の誕生日ですが、先述の通り、任期は5年で持ち回り制となるスタイル。誕生日の祝日は5年ごとに変更されるのか?という疑問が湧きますが、さすがに祝日が5年ごとに変わるとあっては分かりづらく混乱が生じますので、本来の国王のお誕生日は別の日となる毎年6月にすると固定されています。日本では天皇が新しく即位した際には祝日が変更になりますので、その視点から見ると文化の違いが色濃く表れるおもしろい事例と言えるでしょう。
余談ですがつい先日となる2024年7月20日、第17代国王として即位をしたジョホール州のスルタン、イブラヒム・スルタン・イスカンダル国王の戴冠式が王宮(イスタナ・ネガラ)で行われました。クアラルンプールの町は盛り上がり、マレーシアの経済発展の象徴とも言えるペトロナスツインタワーはマレーシアの国旗カラーでライトアップされ、お祝いムードに華を添えました。
各州の君主となるスルタンの誕生日ももちろんお休みですが、この祝日は該当州のみが適用になるため少々混乱が生じる例も。たとえば、州境あたりで暮らす人は自宅と職場の州が異なることがありますが、自宅のある州がスルタン誕生日の祝日でも職場は隣州で平日であれば出勤の必要が生じます。このような例はマレーシアでは普通にあることですが、これもマレーシア人以外の方からは興味深い祝日スタイルに見えるかもしれません。
【マレーシアのユニークな祝日事情まとめ】
マレーシアの非常にユニークかつ、多様性を重んじた祝日事情についてご紹介しました。
祝日が急に増えたり変わったりする事情や州ごとにお休みが異なることもある理由を知っていると、たとえば企業や銀行などを訪問する際にもカレンダーを意識して予定を組めたり旅行のスケジュールも立てやすくなるでしょう。
8月はパリにて2024年のオリンピックが開催されます。国際的なスポーツ大会でマレーシアの選手が歴史的な勝利をおさめた場合に翌日が突然祝日になった事例も過去にはありましたので、そちらの動向にもぜひご注目ください。