世界のAI関連企業がマレーシアに大規模投資をするワケ
東南アジアで順調な経済成長の道を歩む国マレーシア。経済成長に合わせて世界からの投資先としての注目も集め、これまでにも半導体部門でマラッカ州に大規模投資が実施されるなど、国内外で話題となりました。
そのマレーシアが今、世界規模のAI関連企業が大規模投資を行う先として高い注目を集めています。
そこで今回は、世界から熱い視線を集めるマレーシアへのAI関連企業の大規模投資について解説します。
※記事内の日本円表記はすべて、RM1(マレーシアリンギット)=約35円/USD1(米ドル)= 約155円(2024年11月現在のレート)にて換算。
【世界規模AI関連企業がマレーシアへ続々大規模投資!】
2024年、世界規模のAI関連企業がマレーシアに生産拠点やデータセンターを開設など、大規模投資のニュースが相次ぎました。
まずは、すでに発表されているマレーシアへの大規模投資で特に注目度が高いニュースを簡単にご紹介しましょう。
・Microsoft(マイクロソフト) US$22億(約3,410億円)投資
(2024年5月発表)
マレーシアで32年間にわたり事業を行なうMicrosoftは、今後4年間でAIとクラウドのインフラ構築と国立のAIセンターの設立などUS$22億(約3,410億円)を投資すると発表。20万人にAIスキルトレーニングの提供を実現することや、マレーシアの開発者コミュニティーの支援を行うことで成長を目指すことも合わせて述べています。東南アジア各国で投資を拡大している同社ですが、マレーシアでの今回の投資額はインドネシアやタイでの巨額投資額を上回っています。
・Google(グーグル) RM94億(約3,290億円)投資
(2024年5月発表)
マレーシアでのデータセンターとクラウド拠点開設のためにRM94億(約3,290億円)の投資を行うことを発表したGoogle。同社はすでに世界11カ国にデータセンターを所有し、マレーシアは12カ国目。クアラルンプールを取り囲むエリアとなるセランゴール州中部にある商業団地エルミナ・ビジネス・パーク内に開設予定で、これにより2万6,500人の雇用が創出される見解も発表されています。
・ByteDance(バイトダンス) US$24億(約3,720億円)投資
(2024年6月発表)
「TikTok(ティックトック)」を運営する中国のByteDanceはマレーシアでのAIハブ構築に約US$24億(約3,720億円)を投資する計画を明らかにしました。同社はジョホール州クライにある工業団地セデナック・テック・パークにてすでに開設しているデータセンターについて、その拡張にUS$3億2千(約496億円)を投じる方針を述べると同時にマレーシアを東南アジアでのAI開発の拠点としたい考えも述べています。
・NVIDIA(エヌビディア) US$43億(約6,665億円)投資
(2023年12月発表)
半導体の主にGPU(グラフィックス・プロセッサ・ユニット)を開発し、現在の株価の時価総額は世界6位とも言われる世界最大手のNVIDIAがマレーシアの大手複合企業YTL Corporation Berhad(以下YTL)と提携。US$43億(約6,665億円)の投資を計画中と発表しました。YTLが所有するジョホール州のデータセンターでのAIチップを活用したスーパーコンピューターの構築や、AIクラウドを活用した大規模言語モデルの開発などが計画されています。
・Oracle(オラクル) US$65億(約1兆75億円)投資
(2024年10月発表)
アメリカのソフトウエアメーカーOracleは、データセンターネットワークを中心とするクラウド・リージョンをマレーシアに設置する計画を発表。この設置により、マレーシアのユーザーは生成AIの開発加速利用の際に先述のNVIDIAの半導体にアクセスできるようになることも合わせて発表しています。
・AWS(アマゾン・ウェブ・サービシーズ) 2038年までにRM292億(約1兆220億円)投資
(2024年8月発表)
アメリカのクラウドサービス大手企業AWSはマレーシア・リージョン(データセンター)を正式に立ち上げることを発表。すでに世界でリージョン運用を行うAWSですが、今後2038年までにマレーシアにてRM292億(約1兆220億円)を投資する計画も発表しました。この計画により、2038年までにマレーシア国内で建設やエンジニアなどの分野で一年当たり3,500人以上の雇用を生み出すという試算も述べられています。
【なぜマレーシア?AI製造のハブとして注目されるワケ】
ご紹介したような世界規模の企業がマレーシアに巨額投資を行うことで、マレーシアが世界でAI製造のハブの地位を確立しつつあることがお分かりいただけたでしょう。
ではなぜ、世界がマレーシアに注目をしているのか。先述のNVIDIAのジェンスン・フアンCEOが語った「マレーシアはコンピューティングインフラに必要な土地や電力、設備がある。そのため東南アジアで重要なハブになる。」という言葉にその理由が見えてきます。
エネルギー資源や土地が豊富なマレーシア。安定した気候ゆえ他国で起こるような台風や地震などの自然災害も非常に少ないことで知られています。このマレーシアの気候は、ライフラインとなるデータセンターが稼働停止となる自然災害リスクが極めて低い、非常に貴重な環境と注目されています。
そして、持続可能なエネルギー資源としてマレーシアで注目度が高まっている太陽光発電。赤道の近くに位置するマレーシアは年間を通じて日照量が多いことに加えソーラーパネルの設置に必要な広大な土地が豊富と、太陽光発電に非常に適した自然環境を備えています。近年はマレーシア政府が太陽光発電の開発促進に力を入れていることもあり、技術面の急速な進歩と低コストでの実現も進んでいることが世界の各企業から大きな注目を集める要因となっています。
またマレーシアがすでに国として成熟し、ビジネスが進めやすいことも大きなポイントと言えるでしょう。たとえば今回US$43億(約6,665億円)の投資を発表したNVIDIAが提携するYTLはマレーシアで1955年に創業している老舗企業で、主要事業の電気やガスなどのインフラのほか高速鉄道、セメントや建設、不動産をはじめホテルやリゾートなどと手広く手掛ける国内最大級の複合企業です。すでに世界規模に成長した企業との提携でNVIDIAもYTLがすでに所有するジョホール州のデータセンターにアクセスができ、開発環境への距離が縮められる利点もあります。
【マレーシア政府がすすめるAI産業の発展促進政策】
マレーシアが世界のAI製造のハブとして急速に注目を高めることになった理由は、先述のようなマレーシアの自然環境だけではありません。この豊かな土壌を国家として大きな利点とすべく、マレーシア政府はさまざまなAI産業発展への取り組みを行い、国の強みとしてアピールできる制度を整えてきました。
マレーシア政府は2021年に国家としてのデジタル経済戦略「MyDIGITAL」を発表。AI産業の発展の促進をはかり、高所得国かつリーダー国として成長を目指す政府の計画ですが、このMyDIGITAL戦略の一環でマレーシア政府はデジタル産業の法的整備やAI研究、その人材育成に必要となる助成金やプログラムなどを実施しています。先ほどご紹介したNVIDIAとYTLの提携についての報道の際には、アンワル・イブラヒム首相がSNSにてその投資額や経済への影響について言及するなど、国の政策としてこのAI産業への注目度が高いことがうかがえます。
もともとマレーシアは世界の半導体製造の拠点として高い技術力があることで知られ、高いスキルを持つ優秀な人材が多い国です。今回の政府のデジタル戦略の強い後押しにより、これまでの優秀な人材がさらに生かされるだけでなく、AI産業に精通した優秀な若年層の人材育成も積極的に取り組むなど、世界のAI関連企業がマレーシアで雇用を進める際の利点とマッチしたことも大きなポイントでしょう。
【世界のAI関連企業がマレーシアに大規模投資まとめ】
この一年で特に大きなニュースが目立つ、世界からマレーシアへ集まる大規模投資についてご紹介しました。
マレーシア政府も主導するマレーシアのAI製造のハブ化促進は今後のマレーシア経済の動向を左右することにもつながり、マレーシア国内はもとより諸外国の投資家からも注目が集まっています。
この一年で続々と報じられた投資に関するニュースが実際に形となり経済成長の数字として表れていくのは少し先のことですので、ぜひその動きが活発となるであろう2025年に注目したいです。